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【介護の心理学15】サピア・ウォーフ仮説(Sapir-Whorf hypothesis)

ハロー効果(halo effect)

言語相対性原理とは?

私たちは、何かを考えるとき、言語(言葉)を使うでしょう。このとき、逆に、私たちの思考は、言語による影響を受けていると考えられます。ですから、母国語が日本語の人と、母国語が英語の人とでは、物事を考えるときの傾向が異なる可能性が高いのです。

また、たとえ母国語を共有していたとしても、異なる語彙(単語)を使う人々の間でも、思考のありかたが異なるはずです。実際に、異なる業界の人と会話をすると、単純に話している単語がわからないというよりも、考え方そのものに違いが感じられたりもするでしょう。

このように、言語が思考のありかたを決めてしまうという仮説のことを、特に言語的相対性原理(principle of linguistic relativity)と言います。これが事実なら、言葉を異にする人々は、真の意味で、お互いの理解が進まないということになります。

この仮説は、アメリカの言語学者、エドワード・サピア(1884〜1939年)が構築し、その弟子であるベンジャミン・リー・ウォーフ(1897〜1941年)が理論として整えて発表したものです。この師匠と弟子の2人への敬意を込めて、言語的相対性原理のベースになった理論を特に、サピア・ウォーフ仮説(Sapir-Whorf hypothesis)と言います。

言語のない思考は存在するか?

ここで、サピア・ウォーフ仮説には、2つの立場が存在していることには注意が必要です。一つは、言語がなければ、思考することもできないという立場です。これは、言語によらない思考(例えばイメージによる思考)を否定する、かなり極端な立場です。こちらの立場を「強い主張」と言います。

もう一つは、言語がなければ、人間的な思考の一部が働かなくなるという立場です。こちらは、言語によらない思考の存在を否定するものではありません。そのような、言葉によらない思考もあるけれど、やはり言語が持っている思考への影響は小さくなさそうだという立場です。こちらの立場を「弱い主張」と言います。

言語によらない思考があることは、ほとんど直感でも理解できてしまうでしょう。言語をもたない動物であっても、脳を持ち、思考をしていることは明白です。人間であっても、言葉を身につけていない赤ちゃんでも、何かを考えていることは明らかです。ですから、今では、多くの学者が、後者の「弱い主張」を支持しています。

とはいえ、こうした概念のはじまりは、ドイツの伝統的な言語に対する態度であり、それは「強い主張」でした。エドワード・サピアは、このドイツの伝統的な態度に触れて、仮説を構築することになったのです。

介護の現場におけるサピア・ウォーフ仮説とその対策

介護の現場におけるサピア・ウォーフ仮説のあらわれ方として、以下に3つの事例をとりあげてみます。これらは、正確には、学問的なサピア・ウォーフ仮説の拡大解釈であり、科学的には証明された事実ではない点には注意してください。

1. 高齢者の考え方そのものが理解できないことがある

論理的に説明したつもりなのに、どうにも、伝わらないことがあるでしょう。もちろん、こうしたことは、現役世代と高齢者の間でだけ発生することではありません。それでも、やはり、高齢者との意思の疎通のほうが、同世代の人との意思の疎通よりも困難に感じることがあると思います。この背景には、人生経験の違いがあることは当然です。しかし、それ以外にも、使ってきた語彙の違いもあるという点には注意が必要です。人生経験の差は埋められませんが、語彙の差は埋められます。自分が言葉を覚えることで、この語彙のギャップを超えることができたら、意思の疎通は(少しは)楽になる可能性があります。

2. 医療職と介護職の意思統一がなされない

医療職(医師、看護師)と介護職(ケアマネ、ヘルパー)の間で、介護に対する考え方が大きく異なるということは、よくあります。介護をする家族としては、こうしたことはとても困るのですが、現実には、ここのギャップはなかなか埋まりそうもありません。もちろん、命を守ろうとする医療職と、日常生活における自立を目指す介護職の間で、考え方に相違があるのは当然のことです。ただ、ここのギャップには、そもそも、日常的に使う語彙の違いがあるという視点も大切かもしれません。医療職が介護の語彙を、また、介護職が医療の語彙を覚えることで、より包括的なケアが可能になっていく可能性もあります。

3. 家族の間で、介護に関する考え方がまとまらない

介護がはじまると、家族の間で、介護に関する考え方の相違が生まれます。一般には、日常的に多くの時間を介護にとられている人と、それを周囲からサポートする家族との間で、介護に関する考え方に大きな差が生まれることが多いと思います。この背景には、語彙以外にも、多くの原因があるでしょう。同時に、介護に関する語彙の差も、こうした考え方の差を生み出してしまう原因があることも疑えません。普段は、直接的には介護にかかわらない家族も、介護の基本的な語彙を覚えていく必要があると思います。

※参考文献
・平林 幹郎, 『サピアの言語論』, 勁草書房(1993年)
・池内 慈朗, 『芸術的思考におけるシンボル・システム理論とアフォーダンス理論からの「感性」の解釈の試み : イメージスキーマからみたメタファー概念とプロジェクト・ゼロの美術教育における視座』, 美術教育学 : 美術科教育学会誌 (30), 65-79, 2009-03-21

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