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とあるベテラン介護職の意外すぎる悩み

とあるベテラン介護職の意外すぎる悩み

とあるベテラン介護職の体験談

先日、とあるベテランの介護職(介護福祉士)の話を聞きました。介護事業者の経営者から「利用者(要介護者)とその家族から絶大な信頼を得ている人材」とのことで、そのノウハウを聞くために時間をいただいたのです。そうして、その介護職にお会いしてみると、意外にも、むしろ「信頼を得ている」ということに悩んでいました。

この介護職は、次のような事例を話してくれました。

夏場の脱水症状をきっかけに入院し、治療を受けていた80代の利用者であるAさん。入院中に、老人性うつ病を発症し、認知症や身体機能も低下し、車いす生活になってしまいました。その間に肺炎も発症してしまい、結局、1ヶ月半もの入院生活となってしまいました。

退院後のAさんは、デイサービスと訪問介護を利用して、在宅生活を再開しました。適切な服薬管理と、デイサービスでの機能訓練や、周囲の人との交わりを通じて、Aさんは次第に本来の社交性を取り戻し、つたい歩きができるまでに回復しました。家族は、とても喜びました。秋頃には、Aさんと一緒に、十数年ぶりの家族旅行も実現できたそうです。

ところがある日、Aさんの体調が突然悪化しました。また肺炎を起こしており、入院になってしまいました。肺炎治療のため、Aさんが点滴を勝手に抜いたりしないようにと、両手にはミトン(身体拘束の道具)をされ、立ち歩かないように、一部体を拘束されてしまいました。

Aさんは入院1週間ほどでうつ状態になり、食事や水分まで取れなくなりました。あっという間に状態が悪化したことで、家族は極度の医療不信になりました。幸い、精神科の医師との連携で状態は落ち着き、3か月後には退院できたのですが、状態は入院前ほど回復はしませんでした。

家族は、以前の経験から、介護職に対して、大いに期待しました。デイサービスに行けばAさんは元の体に戻れる、明るいAさんに回復する、という気持ちになっていたのです。同時に、家族の医療不信は大きくなり、医師の処方を家族判断で中止したり、通院を拒否するまでに至ってしまいました。

当然、この介護職は、医師との適切な連携を強くすすめました。しかし、この家族は、医師ではなく、この介護職だけとの連携を望んだのです。介護職は、長年の経験から、自分たちにできること、できないことを知っています。また、介護にはできない、医療の偉大な可能性についても熟知しています。

それでも家族は、この介護職への依存をやめることはありませんでした。その後、Aさんは体調悪化から再入院し、半年ほどで他界したのです。きちんと医療と連携していれば、この再入院は必要なかったかもしれません。今も元気だったかもしれません。

接触回数の違いが、いびつな信頼のバランスを生んでしまう

いったいなぜこのようなことが起きてしまったのでしょうか。この介護職は、Aさんへの医療は、身体拘束のような悲しいこともありましたが、全体としては適切なものだったと考えていました。むしろ、介護職としての自分に、大きな責任があると感じていました。

介護生活が長くなればなるほど、利用者やその家族は、専門職の中でも介護職と接する回数が多くなり、時間も一番長くなります。そもそも、介護生活が長くなるということは、利用者の心身の状態が安定しているということでもあります。すると自然に、医療職との接触は、そうそう多くはなりません。

そうして介護職と多く接触していると、心理学的には単純接触効果(ザイオンス効果)が働いてしまいます。人間は、接触回数が多いものを好きになる生き物なのです。介護職が、日々の接触を通して、利用者やその家族から好かれるのは良いことです。しかし、それが結果として、医療不信につながってしまうとするなら、やりきれません。

この介護職によれば、介護職として未熟であっても、利用者やその家族からの信頼を得ることは難しくないと言います。しかし医療職はその逆で、かなりのレベルに達している医療職でも、利用者やその家族との接触回数の少なさから、なかなか信頼が得られないようです。

介護職は、ベテランになるほど、医療の重要性をかみしめていきます。利用者が幸福のうちに暮らしていくためには、介護だけでなく、医療も必要なのです。しかし、介護職がただ真面目に自分の職務をこなすほどに、利用者やその家族が、医療から離れて行ってしまうことも現実としてあるのです。

利用者やその家族に理解しておいてもらいたいこと

介護職としては、利用者やその家族にも、医療の大切さを理解してもらいたいと思っています。介護生活がうまく行っており、介護職が信頼できるからといって、医療をないがしろにするのは間違っています。

よりよい介護生活を実現するには、正しく、医療と連携することも大事です。介護も大事ですが、介護にできることには限界もあります。介護職が頼りになるように感じられるのは、接触回数が多いからという面もあります。逆に、ときに医療職が冷たく感じられるのは、めったに接触しないからという心理学的な理由もあるのです。

ベテランの介護職は、自分が、利用者やその家族から「信頼されすぎる」ことに悩んでいました。もちろん、信頼が得られること自体は良いことです。同時に、ベテランの介護職は、利用者やその家族のことを真剣に考えるからこそ、自分への信頼が、医療不信につながってしまうことを恐れています。

今更かもしれませんが、介護は医療と対立するものではありません。それぞれが、お互いを必要としているのです。

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