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幸福度の高い社会を構築していくために(日本にGNHは有効か?)

幸福度の高い社会を構築していくために(日本にGNHは有効か?)

主観的幸福は遺伝的要素で決まる?!

科学誌『ネイチャー・ジェネティクス』に掲載された論文が、人間が、自分の幸福を実感できるかどうか(=主観的幸福)は、遺伝子によって左右される可能性を示唆しました。

この調査は、17か国から190人を超える研究者が関わった大規模なものです。調査では、約30万人のゲノムデータが分析されました。その結果、この主観的幸福には、3つの遺伝子が関わっていることが確認されたというのです。

主観的幸福とは、厳密には、私たちが自分の生活の質に関して持つ感情のことで、心理学においても「幸福感」の中心的要素であると定義されているものです。

今回の調査では、うつとの関連がある遺伝子も特定されています。この研究が進めば、幸福感や落胆といった心理的要素と、遺伝子の関連性が解明されるかもしれません。

とはいえ、全てが遺伝で決まるわけではないでしょう。遺伝的な要素についての研究と、その実用化は大事です。同時に、遺伝によらない、環境面からの幸福へのアプローチについての実践も進めていかないとなりません。

世界一、幸せな国はどこか?

世界で一番、幸福な国はどこでしょうか。国際非営利調査機関「World Values Survey」によると、世界で最も国民の幸福度の高い国はデンマークで、プエルトリコ、コロンビア、アイスランド続くそうです。因みに、米国は16位、日本は43位です。

このランキングの上位には入っていませんが、日本にもとてもなじみ深い「幸福の国」と呼ばれる国があります。ヒマラヤ山脈南麓に位置するブータン王国です。ブータンは「国民総幸福量(GNH=Gross National Happiness)」という考え方を推進していることで知られています。

GNHは、経済成長を重視する姿勢を見直し、伝統的な社会・文化や民意、環境にも配慮した「国民の幸福」の実現を目指す考え方です。これは、二極化が進み、社会福祉が悪化していく現代社会でこそ、参照されるべきものでしょう。

このGNHの背景となっているのは仏教の教えと言われます。根幹となるのは(m1)持続可能で公平な社会経済開発(m2)環境保護(m3)文化の推進(m4)良き統治という、4本柱です。

この根幹に対して(s1)心理的な幸福(s2)国民の健康(s3)教育(s4)文化の多様性(s5)地域の活力(s6)環境の多様性と活力(s7)時間の使い方とバランス(s8)生活水準・所得(s9)良き統治、という9分野にわたり、72の指標が定められています。

ブータンでは、国家がGNH追求のために努力することは憲法にも明記されています。そして、ブータンの政策を立案し調整する「GNH委員会」が重要な役割を担っています。

国民総生産(GNP)よりも国民総幸福量(GNH)を重視する

1970年代、ブータンの先代の国王であるジグミ・シンゲは「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要である」と提唱しました。この背景について、もう少しだけ考えてみます。

ブータンの1人当たりの国民総所得は1,920米ドル(世界銀行、2010年)です。つまり、一人当たりの年収が約20万円しかないということです。もちろん物価の違いなどもありますが、決して高いとは言えません。

しかしながら、国勢調査(2005年)ではブータン国民の約97%が「幸せ」と回答しています。いかに、この国の中に、GNHという考え方が浸透しているかが理解できるでしょう。

ブータンはGNHを基本方針とする独特の政策をとっています。なんと、医療費と教育費は無料です。日本でも教育費は公立学校で一部無償化が進んでいますが、医療費の無償化はまず成り立たないでしょう。

ブータンへのタバコの持ち込みや、高山への登山は禁止です。また、国土の森林面積の割合を60%以上に維持することを定め、森林や伐採業務を国有化しています。

GNHは2008年9月、ブータンのティンレイ首相によって、国連総会の演説の中で紹介されました。この演説をきっかけに、世界に「幸福度を測る」という観点での経済、政治、社会などの見直しの機運が広がりました。

ヒマラヤに抱かれ、伝統文化を維持する神秘的な国からのメッセージは、成長至上主義、市場経済万能の発想に対するアンチテーゼとなったのです。こうした持続可能な開発・発展は、近年のエコロジーの流れもあって世界から注目を浴びています。

少子高齢化を迎える日本にもGNHの考え方を

昨年、35年連続で日本の子供の数が減ったというニュースが流れました。日本はこれからますます少子高齢化が進み、人口が減少していきます。そうした中で、経済を発展させていくことは困難でしょう。

実際に、かつては経済大国といわれていた日本ですが、2050年の日本のGDPは、中国やインドの11~12分の1、インドネシアやブラジルの半分以下になるとも言われています。また、今のままでいけば、国内の経済格差はさらに大きくなる一方です。

この大きな変化のうねりの中で、何をもって幸せとするのかは、非常に難しい問題です。もちろん伝統と近代化という一本の座標軸の上で、ブータンが伝統の維持に偏るだけでは、国民の幸せを高く保つことは厳しいでしょう。

しかしながら、このGNHという考え方は、これからの日本を考える上で、非常に重要な考え方になると思うのです。日本は、国力が弱まっていく中でも、国民の幸福度を高め、素晴らしい国であり続けなければなりません。

「人と人とのつながり」、「コミュニケーション」、「支え合い・助け合い」、「他者の役に立っているという実感」といった、GNHの要素に目を向け、これからの日本のあり方を考えていく必要があります。

※参考文献
・Forbes Japan, 『いつでもハッピーでいられるかは遺伝子で決まる?30万人調査の結果公表』, 2016年5月4日
・日本経済新聞, 『幸福の国ブータン、揺れる幸せの定義』, 2015年5月24日
・丸尾 美奈子, 『社会保障と幸福度の関係』,ニッセイ基礎研究所, 2008年9月16日
・外務省HP, 『わかる国際情勢vol.79ブータン~国民総幸福量を尊重する国』, 2011年11月7日
・丹下 留美子, 『幸福度の高い社会の構築 ~国民生活・経済に関する調査会3年目の活動~』, 立法と調査(No.306), 2010年7月

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