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【平穏死ブームの功罪】過剰医療だけでなく、過少医療にも十分な注意が必要だ

過剰医療だけでなく、過少医療にも注意が必要?

気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。

平穏死(へいおんし)ブームが到来している?

スパゲティ症候群という言葉があります。終末期において、輸液や導尿、気道や栄養確保などのために、身体じゅうにチューブが接続されている状態を示す言葉です。いわゆる過剰医療の象徴として、否定的に使われることがほとんどです。

こうした過剰医療に対して、近年注目を集めているのが平穏死(へいおんし)と呼ばれるものです。過剰な延命治療を避けて、自然な衰弱に身を任せながら死ぬというもので、スパゲティ症候群に対するアンチテーゼとしての意味を持ちます。

過剰医療にはお金もかかりますし、マスコミが大きく取り上げてきています。このため、世間は過剰医療を十分に警戒するようになっています。そして実は、過剰医療はすでに医療の現場ではかなり少なくなってきているそうなのです。まさに平穏死ブームの到来です。

平穏死ブームの危険性について

ある熟練の医師に、この平穏死ブームについて、意見をもらいました。結果として、このブームには無視できない問題もあることが判明しています。結論から先に言えば、今の医療現場には、過剰医療ではなくて、むしろ、平穏死ブームから生じる過少医療の危険性があることがわかりました。以下、3つの視点から簡単にまとめてみます。

視点1. 自然にという言葉の軽さ

当たり前ですが、なんでも自然が良いということはありません。そもそも現代社会に生きる人間は、自然状態においてはすぐに死んでしまうほど、自然に適応していません。たとえば夏にクーラーがなければ、また冬に暖房がなければ、私たちの命は危険にかなり近づきます。「なにもしないで、自然に」という言葉は、場合によっては本当に危ない言葉にもなり得るのです。そもそも私たちは、自然とはなにか、どれほど深く理解しているでしょう。自然という言葉を、ただそれだけでポジティブにとらえてしまうのはよくありません。それが、本当によく考えられた結果として発せられているのか、気にすべきところでしょう。

視点2. 高齢者差別があるかもしれない

これも当たり前ですが、高齢者だから死んでいいということはありません。人間の命は等価であり、医学の祖と言われる古代ギリシャのヒポクラテスによる誓い(ヒポクラテスの誓い)にも「いかなる患家を訪れる時もそれはただ病者を益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない」とあります。平穏死(へいおんし)という選択が、自分の子供に対してなされる場合と、高齢者となった自分の親に対してなされる場合では、私たちのそれへの関心は(それこそ自然に)異なるでしょう。だからこそ、そうした選択には高齢者差別がないかどうか、意識して確認する必要があるのです。

視点3. 死への誘導があるのではないか

平穏死(へいおんし)という言葉には、はじめから、それがポジティブであるという価値観が含まれています。実際、平穏という言葉に、ネガティブなイメージはないでしょう。言葉自体にロマンチックな響きもあって、本当は死と戦える状態にある人を、あきらめさせて死に誘導してしまう可能性もあるのではないでしょうか。それは「平穏」という都合のよい言葉で隠された「放置」ではありませんか?死と戦うことを決める人もまた、見込みのない治療をやめる人と同等に尊厳を持った存在です。言葉の力をあなどると、大変なことになります。

最後まで病院で死と戦いたい人もいる

過剰医療につながる延命至上主義も、平穏死の根拠になる自然主義も、極端になればどちらも危ういものです。昨今、自宅で最後を迎えるという流れができつつあります。実際に、終末期を自宅で療養したいという人は、60%以上にもなります。

しかし同時に、最後まで病院で死と戦いたいという人も10%程度はいるのです。こうした人々に対して「それは自然なことではない」と言う権利は誰にもありません。そして、平穏死という言葉が、死と戦っている人の勇気をくじく(不必要な死の受容につながる)可能性について、私たちはもっと慎重になるべきだと思います。

現在の平穏死ブームは、過去のスパゲティ症候群に象徴される過剰医療へのアンチテーゼとして起こっていると考えられます。しかし、過剰医療に問題があるように、行き過ぎた平穏死ブームもまた問題の多いものとして捉え直す必要があるのではないでしょうか。

※参考文献
・厚生労働省医政局指導課/在宅医療推進室, 『在宅医療の最近の動向』, 2012年

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