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私たちの未来にだけでなく、過去にも「死」があるという考え方(マルクス・アウレーリウス)

私たちの未来にだけでなく、過去にも「死」があるという考え方(マルクス・アウレーリウス)

気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。

ローマ皇帝マルクス・アウレーリウス

哲学者プラトン(紀元前427〜紀元前347年)は、哲学者による政治を理想としました。しかし、人類史上、この理想が実現されたことはほとんどありません。むしろ、私利私欲にまみれた人物が政治家となり、その恥を歴史に残すことのほうが多いくらいでしょう。

そうした中にあって、少なくとも1人は、この理想を実現したと言われる人物がいます。それが、第16代ローマ皇帝であったマルクス・アウレーリウス・アントニヌス(121〜180年)です。現代から、1800年以上も前に存在した賢帝であり、彼による『自省録』は、時空を超えて今なお孤高のテキストとして知られています。

彼は、多忙を極める皇帝としての地位にあり、哲学について理論的な体系を生み出して著作とするような活動はしていません。ただ、折に触れて自らのあり方を振り返り、それをメモとして残しておく習慣がありました。『自省録』は、このメモをまとめたものであり、本来は誰かに読ませるためのものではなかったと考えられています。

マルクス・アウレーリウスも「死」ついて考えた

このメモの中には、彼による「死」に関する考察が多数残されています。それは決して後ろ向きなものではなく、自分が生きている今を見つめるための思考の原点として位置づける性格のものです。こうした考察の中に、次のような一節があります。

君のうしろに永遠の時の淵が口を開けているのを見よ、また前にももう一つの無限のあるのを。この無限の中で、三日の赤児もネストールの三倍も長生きした人間もなんのちがいがあろうか。

多くの人は、将来の「死」について不安になり、それを恐れます。しかし私たちは、生まれてくる前も、この世に存在していなかったのです。つまり「死」は、将来必ず至る状態であるだけでなく、生まれる前の過去にも、ずっと存在していたということです。

現代では、この宇宙は137億年前にできたことがわかっています。ということは、私たちは、137億年の間は「死」の中にあり、こうして生まれて死ぬまで数十年を過ごし、将来はまた永遠の「死」に戻っていくということです。

私たちの生きているこの時間の前後には、ほとんど無限と言ってよい時間があります。マルクス・アウレーリウスは、この無限の時間に対して、生きている時間は極端に短く、三日の命も、数十年の命も、たいして違わないと言っているわけです。

私たちは「死」を経験している

生まれる前にも、137億年の「死」があると考えれば、私たちは「死」を経験しているとも言えます。生きていない時間なので、その時の記憶がないのも当然です。とはいえ、私たちの未来にある「死」は、馴染みのない状態ではなく、むしろ、生きている今よりもずっと慣れ親しんだ状態とも言えるのです。

自らの「死」は直接的に経験することができないという立場もあります。同時に「死」は、私たちの過去にずっと存在していたものであるという立場もあるということです。それは無限に安らかであり、とても自然な状態でもあります。

最後に『自省録』より、もう一節、引用しておきます。

絶えずつぎのことを心に思うこと。すなわちいかに多くの医者が何回となく眉をひそめて病人たちを診察し、そのあげく自分自身も死んでしまったことか。またいかに多くの星占術者が他人の死をなにか大変なことにように予言し、いかに多くの哲学者たちが死や不死について際限もなく議論をかわし、いかに多くの将軍が多くの人間を殺し、いかに多くの暴君がまるで不死身でもあるかのように恐るべき傲慢をもって生と死の権力をふるい、そのあげく死んでしまったことか。またいかに多くの都市全体が、いわば死んでしまったことか、たとえばヘリケーやポンペイイーやヘルクラーネウムやその他の無数の都市である。

その上また君自ら知っている人たちがつぎからつぎへと死んで行ったのを考えてみよ。ある人は他の人の湯灌をしてやり、それから自分自身ほかの人の手で墓に横たえられ、つぎには別の人が墓に入れられた。しかもこれがすべて束の間の事柄なのである。要するに人間に関することはすべていかにかりそめでありつまらぬものであるかを絶えず注目することだ。昨日は少しばかりの粘液、明日はミイラか灰。だからこのほんのわずかの時間を自然に従って歩み、安らかに旅路を終えるがよい。あたかもよく熟れたオリーヴの実が、自分を産んだ地を褒めたたえ、自分をみのらせた樹に感謝をささげながら落ちていくように。

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