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終末期における臨床宗教師(チャプレン)の役割を考える

臨床宗教師(チャプレン)の役割気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。

臨床宗教師への注目が高まっている背景

2011年3月11日に起きた東日本大震災では、多くの人が被災し、日本中が深い悲しみに包まれました。この震災の直後は物的な支援や、ボランティアなどの人的支援が必要とされました。読者の中にも、寄付をしたり、物資を送ったり、ボランティアとして現地に入った人も多いでしょう。まずは「その日を生き抜くこと」への支援が行われました。

東日本大震災の発生から少し時間がたったころ、様々な支援とともに求められたのが被災者の心のケアでした。震災では、愛する家族や仲間、あるいは住むところを失い、悲しみに打ちひしがれ、大きな孤独を抱えた被災者が多数生まれてしまいました。そこに、心のケアが求められるのも当然です。

こうした心のケアにおいて活躍しているのが、さまざまな宗教者たちです。宗教者たちは、宗教や宗派を超えて、被災者の悲しみに寄り添い、少しずつであっても、生きる勇気や希望を育むことに貢献しています。

被災地における宗教者の特徴は、それぞれの宗教の布教や伝道を目的としていないところです。それぞれが一人の人間として被災者に向き合い、その悲しみを聞き、心のケアをしています。もちろん時には読経など、宗教的な方法も使いますが、あくまでもそれは被災者の心を少しでも解放するためのものでした。

震災をきっかけとして、多くの宗教者が宗教の枠を超えて活動した結果、宗教者の役割に対する意味が、学術的にも社会的にも見直され始めました。宗教というと、アレルギー反応を感じる人も多いのですが、実際の成果が積み上がるにつれて、注目を集めるようになったのです。

たとえば、東北大学大学院では、広い宗教性に基づきつつ、宗派を超えて様々な立場から人々の心のケアを実践する宗教者を「臨床宗教師」と位置づけました。そしてこの「臨床宗教師」を養成する教育プログラム(実践宗教学寄附講座)を、2012年4月に開設するに至っています。

当初は東北大学のみでの講座となる予定でした。しかし、この考えに共感する団体が徐々に増え始めたのです。そこで東北大学は「臨床宗教師」を自分たちだけのものとせず「公共的施設などで働く宗教者をさす一般名詞」として、誰にでも使える言葉にしました。現在では、東北大学以外の大学でも「臨床宗教師」の育成が進んでいます。

欧米で活躍するチャプレン(chaplain)

欧米には、教会や寺院に属さず、施設や組織で働く宗教者である「チャプレン」という人々がいます。特に災害時には、普段は寺院などに所属している宗教者であっても「チャプレン」として被災者に向き合うこともあります。

日常的に「チャプレン」として活動している宗教者は、病院や福祉施設、学校、軍隊、警察、消防、刑務所などに所属しています。多くの人が出会ったことのある欧米の「チャプレン」としては、結婚式場の牧師がいます。

特に災害時における「チャプレン」は、様々な喪失を経験した人々の悲しみに寄り添い、精神的なケアに従事します。お気づきのとおり、先の「臨床宗教師」は、欧米における「チャプレン」に相当するものです。

日本では、東日本大震災をきっかけとして「臨床宗教師」の認知が進みました。同時に、欧米における「チャプレン」が災害時という限定を超えて活動している事実から「臨床宗教師」も、より幅広い分野で活躍できるのではないかと指摘されはじめたのです。

終末期ケアの必要性は高まり続けている

日本の高齢化率は、すでに26%を超えています。高齢者の死亡率は、若年層のそれよりも高くなるのが普通です。高齢化率が上がっていくということは、死と、それに伴う悲しみが起こりやすい社会になっていくということです。

過去に比べて高齢者の人数も多いですから、終末期の過ごしかた、死の迎えかたに対する考えも多様です。終末期ケアそのものの重要性が高まるのと同時に、その複雑さも大きくなってきているのです。

日本老年医学会は、終末期ケアを「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な最善の治療により、病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態」と定義しています。

この終末期ケアについては、ターミナルケア、ホスピスケア、緩和ケア、エンドオブライフケアなど様々な用語が用いられています。正確には、それぞれに意味が異なるところもあるのですが、共通する原則もあります。

(原則1)身体的、精神的、社会的、霊的な痛みに対して全人的なケアを提供する
(原則2)死の瞬間までその人らしく生きるために希望や意思が尊重される
(原則3)その実現のために多職種でチームアプローチを行う
(原則4)患者と家族を対象とし、死別前後の家族の悲嘆へのケアを行う

終末期ケアにおいては、加齢や病気の影響により、改善することができない身体機能などをそのまま受け入れます。そのうえで、変えられることに着目しながら、残された貴重な時間を、その人がどのように過ごしたいかを引き出します。

そして目標を設定し、多様な選択肢の中から、その人らしい実現の方法を探します。ここでは医療・保健・福祉に携わる多くの職種が連携し、チームとして支援していくことを目指します。

介護における終末期ケアの問題

高齢者に対して、尊厳を重視した終末期ケアを提供するためには、多くの職種が関わり、それぞれの専門性を発揮する必要があります。どの職種にも終末期ケアにおける課題はありますが、特に若く、経験の少ない介護職や医療職の場合は、死に関するケアに対する不安が大きいことが指摘されています。

こうした背景から、職場の形態に関わらず、介護職や医療職に対して、終末期ケアに関する包括的な教育が必要になってきているのです。具体的には、終末期の身体、心理的変化に対応するための知識や技術、死生観や倫理的課題への判断、死別前後の関係者の悲嘆へのケアなどがその内容になります。

そして、この場面において「臨床宗教師」の活躍も期待されています。人数的な制約から、すべての終末期に「臨床宗教師」が関わるのは(理想的ですが)難しいかもしれません。それでも、若手の介護職や医療職の教育などにおいては、貢献できる場面も多くありそうです。

最近では「終活」という、死への準備の必要性を耳にすることが多くなりました。終末期の高齢者を持つ家族としても、死に至る経緯を理解し、変化に動揺しない心を持つための準備の大切さが認識されつつあるのです。

※参考文献
・百瀬 由美子, 『病院および高齢者施設における高齢者終末期ケア』, 日本老年医学会雑誌, 48巻3号, 2011-05
・柴田 実, 『医療における宗教専門職の考え方 キリスト教チャプレンの視点』, 宗教研究, 89巻別冊, 2016
・谷山 洋三, 『災害時のチャプレンの働き その可能性と課題』, 宗教研究, 86巻, 2012

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