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【書評22】『だいじょうぶ認知症』和田行男著, 朝日新書

だいじょうぶ認知症 家族が笑顔で介護するための基礎知識 (朝日新書)
Amazon: だいじょうぶ認知症(朝日新書)

「だいじょうぶ」というタイトルは出版社の提案だそうです。「だいじょうぶなわけないだろ」という家族の思いをよく知る著者は、このタイトルを受け入れた理由を「本書が、家族が絶望しないための『心の武装』になり、専門職の人々や社会がだいじょうぶと言えるようになることを目指して(要旨)」と言っています(p3〜9)。

本書には、サブタイトルの通り「家族が笑顔で介護するための基礎知識」が、具体的に、笑いもまじえながら書かれています。

著者は「認知症の人」とは言わず、必ず「認知症という状態になった人」という言葉を使います。単なる言い回しの違いではなく、認知症の人などいない、「人」が「認知症という状態になった」と、とらえるべきだという一貫した姿勢の表れです。

認知症と人を分けて考えること、つまり「人に認知症がくっついた」という捉え方を繰り返し説いています。その人の周りに「認知症」がついているだけで、中身は本来の人間なのだという考え方は、当たり前のようですが忘れられがちです。

認知症は「本人はボケてわからないからいい」ととらえられ、周りの大変さだけに注目されてしまいます。認知症も、ガンなど他の病気と全く同じで「一番つらく、苦しく悔しい思いをしているのは本人だ」と受け止められていないことが問題なのだ(p69〜72の要旨)というのが著者の意見です。

認知症の周辺症状といわれる様々な行動も、健康な人と同じ発想からの行動なのだといっています。たとえば「もの取られ妄想」について、誰でも何か見つからないときに、身近な人に「〇〇知らない?」と聞くだろうという著者の指摘には、なるほどと思わされます。

徘徊や帰宅願望、暴言、暴力など認知症特有といわれる症状についても、わけの分からない人の迷惑行為ではなく、ベースは健康な人と変わらない、それなりの理由があるのだと理解できます。

行動の理由を知った上での対応の実例がいくつかあげられていますが「とりあえず本人に話を合わせる」例もあげられています。「認知症という状態になった人」を充分に尊重した上での、現実的な対応はとても参考になります。

「理想は捨てないけれど、現実をよく知る」著者のアドバイスが随所にあります。これは、まじめで一生懸命な家族にこそ力になることでしょう。理想でガチガチに自分を縛るのではなく、理想を実現するための妥協もあり、と思えるからです。

例えば、環境不適応の例として排泄の問題を取り上げている章(p85、86)で、薬物使用の是非と専門職のとるべき対応を語っています。そこでは「自宅で介護している家族に、専門職のような支援は無理。医師と相談の上で家族に無理がこないように薬物を使用するのもやむを得ない処置(要旨)」「本人が家族と一緒に自宅で暮らすことを望んでも、家族が介護しきれない状態になっては本人の望みは叶わないのだから(要旨)」と述べています。

著者は1987年に介護福祉士となり、現在は東京を中心に、グループホームやデイサービスなどの介護施設を展開する介護事業を統括しています。この著者による介護の様子がNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介(2012年)されています。

「介護業界の革命児」と呼ばれるそうですが、「認知症があろうが、身体に障害をもとうが、主体的な地域社会生活をおくれるように実践するという当たり前のことを追い求めてきただけ」「当たり前の介護が『革命』などと呼ばれない時代が早く来ることを願う」(p6,7の要旨)とのことです。

本書には、そもそも認知症とは何かに始まり、認知症という状態になった人のとら方と対応、施設選びのポイント、介護保険の利用法などの基礎知識が過不足なくコンパクトにまとめられています。以下、少しですが認知症の問題が現在進行中の家族にも、近未来の問題の人にも、参考になりそうな箇所を抜き出します。

○認知症の早期発見のために―それまではその人になかったような言動が二つ、三つ起こってきたら、メモを正確に取って専門職に相談する。(p52、p120)

○「疾患によって認知症がくっついた」と考える。「わけがわからなくなった親ではなく、親をわけがわからなくしているのは認知症」(p88)

○認知症になったときにどうしてほしいかを話し合っておく。「元気なときからこう言っていた」という具体的な話があればあるほど、本人の願いにそった「人生を全うする支援」を行いやすい。(p114~116)

○社会資源(施設、介護保険など)を使うときの窓口となるキーパーソンを1人決め、必ずキーパーソンを通して行動する。異論があれば家族間で徹底的に話し合う。たとえ結論に同意できなくても、決定したことに全員が従うというルールを確立する。キーパーソンは長男だからなどと序列で選ぶのではなく本人をよく知る人を選ぶ。(p175、176)

○遠隔地の親の認知症―まず専門職に相談(地域包括支援センター)必要なこと•親の状態を知り今後に備えるための受診•介護保険制度活用へ介護保険の申請•認知症の基本的な知識•金銭等の管理対策•火元対策•車の運転対策•犯罪対策(p229~232)
 

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