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【書評15】『ユマニチュード 認知症ケア最前線』望月健著, 角川書店

ユマニチュード 認知症ケア最前線 (oneテーマ21)
Amazon: ユマニチュード 認知症ケア最前線

過去にKAIGO LABでも、認知症ケアの方法として今注目されている「ユマニチュード」を紹介しています。そちらでは、詳しい内容を知りたい人のために、書籍「ユマニチュード入門」を案内していますが、今回紹介する本は、NHKの番組取材班ディレクターが書いたものです。

著者は、番組のために、イヴ・ジネスト(ユマニチュード考案者の1人)に同行し、実際に日本の病院などで行った実際のケアと研修の様子をつぶさに観察しています。

その様子は、昨年「クローズアップ現代」「あさイチ」「NHKスペシャル」で放映されているので、目にした人も多いかと思います。この本にも、番組に登場した認知症の人たちの話が実名と笑顔の写真とともに出ています。著者の言うように、驚くべき効果です。

ケアの方法にも写真が添えられて理解の助けになっています。例えば、“オムツ交換や体を拭くときに介護者が何気なく手首や腕を「つかむ」ことが認知症の人に恐怖心を抱かせてしまう。「つかむ」のではなく「触れる」ことで相手の動こうとする意志を生かして下から支える”という説明に添えられた写真(p41)で、具体的な方法がイメージできます。

単なる同行体験談ではなく、ユマニチュードの紹介を軸に、そもそも認知症とは何か、日本の認知症ケアの現状、そしてユマニチュードが病院や施設に広がりつつある様子を伝えています。

第3章(p97~125)ではインタビューに答えてイヴ・ジネストがユマニチュードの根本にある考え方を述べています。

「ユマニチュードの哲学とは、人と人の間に生まれた『絆』を中核とする哲学です。―中略―相手を人間として認識する哲学なのです」(p99)「私たちは、その人がどんな状態にあろうとも、『あなたは人間である』『人間として、そこに存在し続けている』というメッセージを伝える技術であるユマニチュードを開発したのです」(p106)といった具合です。

ユマニチュードの特徴の一つは自然ではない点だ(p122)という言葉は意外ですが、見たくないものを前にして無意識に目をそらすのが人間の自然な反応なのに対して、あえて近距離から目を合わせる“不自然な”対応をするのがユマニチュードであるという説明に、深く納得させられます。

認知症の人の存在が社会問題になっているが、それに対するユマニチュードの役割は何かという問いに「高齢者は社会を支えてきた根であり、それをないがしろにする者は、果実を手にすることなど、決してできないのです」(p124)と言い、「ユマニチュードが広がれば、高齢者や病気に対する社会と人々の見方を変えることができると思っています」と答えています。

「見つめる」「話しかける」「触れる」「寝たきりにしない」というユマニチュードの原則は、赤ちゃんを育てるときに母親が自然にしていることと同じです。しかし、イヴ・ジネストは「介護される人は赤ちゃんではない、それぞれに人生の歴史を持っている人なのだ」という意味のことを言っています(p107)。

優しく接しているつもりで、小さな子どもに話しかけるような言い方をすることは、病院や施設の職員、そして私たち自身もやってしまいがちなことです。

放送後の視聴者の反応には、好意的なものばかりではなく「外国のものを何でもありがたがる」「そんなことは、(自分の施設では)とっくにやっている」という声も寄せられたそうです。皆さんの中にも、「そんなゆとりは無い」「もうそんなことはやっているが効果はない」という人もいるかもしれません。

しかし、今まで様々な人が無意識にあるいは独自の工夫でやってきた「望ましい介護」を分析して系統立てたユマニチュードについて知ることは、認知症の人との介護に悩んでいる人の大きな助けになるはずです。

より詳しく知りたい人のために巻末にジネスト・マレスコッティ研究所日本支部のウェブサイトの案内があります。一般向けの講習会の情報等もチェックできます。

KAIGO LAB取材:I.Kさん(40代、OL)

3ヶ月余り脳腫瘍末期の母を自宅で看ました。話が通じない母を世話するのはほんとうに辛い体験でした。しっかりしていた頃のイメージが崩れて行く情けなさと昼夜を問わず呼びつけられる疲れとで、優しく接しようと思っても、とてもとてもできませんでした。要求がない時はできるだけ他の部屋に逃げるような生活でした。

顔つきも態度も変わってしまった母と目を合わせることは避けていたと思います。オムツ交換や体を拭くときは、とにかく手際よく早く済ませたい一心で「触れる」とはいえない「作業」でした。

痛みをコントロールする投薬の管理、清潔を保つ、食べられそうな物を工夫して料理するなど「母のために」最大限努力していたつもりでした。外側から見える母の言動にばかり反応して、もうダメになった人としてあつかってしまったと思うと心が痛みます。

時々たらいにお湯を貼って足湯をさせてあげると、母が見違えるように穏やかな顔になったのを思い出しました。この本を読んで、お風呂好きな母が「やりたいこと」の一つだったから、私がゆっくりと母の足をもみほぐしながら「触れた」からだと思い当たりました。母が穏やかだと自然に私も母の顔を見上げながら「気持ちがいい?」と話しかけていました。

本にも書いてあるように、魔法ではないし、すぐにうまくいくわけではないでしょうが、相手が元気だったときと変わらず、人間として尊重すること、相手の不安の原因を考えること、が大切だと気づかされます。今、意思の疎通の難しい家族を見ている人に、ぜひ読んでほしい本です。
 

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