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【書評54】『カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座』久坂部羊著, 扶桑社新書

カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座
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今は、健康に関する情報があふれています。医師の解説つきのテレビ番組も複数ありますし、書籍も次々と出版されています。健康情報の氾濫は、国民全般の健康志向の現れとも言えますが、健康に不安を感じる高齢者の増加が最大の要因でしょう。

健康食品やサプリメントの新聞雑誌広告やテレビコマーシャルとなると数えきれないほどです。人体の一部のリアルな図がそえられることも多く、いかにも効果がありそうに感じられます。

このように、医学的な裏付けがありそうな情報に囲まれていると、なんとなく健康についての知識があるような気がしてきます。しかし、ほとんどの人は、健康とは何か、自分自身の身体がどうなっているのかを正確に理解しているわけではないでしょう。

著者は医師であり、作家です。本書は(本の帯の煽り文句は行き過ぎですが)医学的な正確さと文学的な面白さを兼ね備えた楽しい読み物になっています。楽しいだけではなく、医師としての現状への危機感も具体的に述べられています。

アンチエイジングやダイエットも身体のことをよく知らずに取り組んでも努力が無駄になったり逆効果になったりする危険がある。健康情報がビジネスに悪用されることも少なくない。怪しげな健康食品やサプリメント、老化防止の裏技のように宣伝される医薬部外品、根拠ゼロのボケない秘訣などにだまされないためにも身体のことはよく知っておいたほうがいい。(p4, 5要旨)

全体に講義のかたちをとっています。第1講-実は医学は面白いーウソがいっぱいの医学の不思議から始まって、第2講-呼吸器系、第3講-消化器系、第4講-循環器系、第5講-神経系、第6講-泌尿器系・生殖器系、第7講-感覚器系、第8講-内分泌系・リンパ系、第9講-皮膚・骨・筋系で人体の構造と病気のしくみについて解説しています。

話し上手の教授の講義を聞くように読むことができます。映画や小説、マンガが例に挙げられ、ときには著者の体験や人間観が述べられます。モーツアルトの左耳は先天的に異常な形をしていた、死の直後に生まれた子は不義の子と疑われたが、同じ耳だったために、実子と証明された(p176要旨)といった興味深い雑学もあちこちに挟まれています。

また著者は、中世には効果があるとされてきた瀉血などのを例に挙げて、現時点での医学が絶対ではないと言います。

医学は科学の中でも時代とともに変化しやすいものです。だからあまり信用しないほうがいいです。そもそも医学史は、常に過去を嘲笑することで成り立ってきました。現代の医師は中世の医療にあきれ、中世の医師は古代の医療をさげすんでいました。ということは、現代の医療もまた、未来の医師から嘲笑される可能性が高いということです。(p15, 16)

乱暴な物言いに感じられるかもしれませんが、現代医学=科学的=絶対という思い込みへの警鐘と受け取るべきでしょう。いま、当然のように施されている治療や、サプリメントへの疑問もくりかえし書かれています。たとえば、骨粗鬆症の部分では、

最近、新しいカルシウム剤や骨芽細胞の活動を高める注射などが使われているが実際的な効果はほぼない。多少骨量が増えるかもしれないが、高齢者が転倒すれば、たいてい大腿骨頸部骨折か脊椎の圧迫骨折を起す。(p238要旨)

といい、実際的な効果もないのに漫然と治療を続けることに疑問を投げかけています。盛んに流されるグルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、コラーゲンのテレビコマーシャルも問題にしています。ここについては、口から取り入れた物質が都合よく患部に集まるわけがないと、背後に強い怒りさえ感じます。

「牛乳は骨粗鬆症の予防にならない」(p234~236)という情報も、ほとんどの人が知らないことかもしれません。「牛乳で骨粗鬆症の予防を」というコマーシャルは、アメリカでは1998年から、日本では2003年から行われなくなったということです。

骨粗鬆症の予防にならないだけではなく、とりすぎると骨からカルシウムが溶け出してしまうといいます。「血液のカルシウム濃度が急激に挙がると、排泄が進みすぎ、それを補うために骨のカルシウムが血液に溶け出す」(p236)というしくみとのことです。同じ理由から、サプリメントでカルシウムを摂取することにもリスクがあると言います。

誤解のないように付け加えると、牛乳が身体に良くないということではありません。とり過ぎに注意しなくてはいけないということです。カルシウムに限らず、どんな栄養素でも過剰摂取はよくないということでししょう。日常の食事の中で、継続して適量をとることがが大切です。

高齢の親が、多くはない年金を健康食品やサプリメントに費やして困るという話を聞くことがあります。高齢者に限らず、中年を過ぎると健康不安からサプリメントなどに頼りたくなるのも人情です。しかし、一度立ち止まって、健康とは何か、何のための健康かを考えることも大事だと、本書は訴えます。

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