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【映画評5】『ドライビングMissデイジー[DVD]』ブルース・ベレスフォード監督監督(ネタバレ注意)

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1989年に北米限定で公開され、大ヒットした映画です。1990年には日本でも公開されています。原作はアルフレッド・ウーリーの戯曲で、映画化にあたっても同じ人が脚本を書いています。ほぼ30年前の映画ですが、テーマも映像も全く古びていません。今でも舞台で演じられます。

元教師、ユダヤ人のデイジー・ワサンは一人暮らしの老婦人です(ちなみにタイトルにも劇中にも使われるミスの敬称は、独身女性のためのものではなく先生と言う意味です)。長年、通いのお手伝いさんが家事を担っています。一人息子のブーリーは、祖父の起した会社を継いで、デイジーの気に入らない嫁と暮らしています。

ある日、デイジーは車で外出しようとして、隣家の生け垣に突っ込んでしまいます。愛車のキャデラックはひっくり返り、無惨に壊れます。ドアを出たとき一分の隙もなかったデイジーの外出姿も台無しです。撤去される車を、近所の人や召使いたちが見物しています。傾いだ帽子の下の表情が、デイジーの性格を現しています。ショックをうけながらも、平静を装っている、内心を表に出すのは、はしたないと考えるような性格です。

心配した息子が、初老の黒人男性、ホークを運転手として雇います。デイジーは、電車を使うと言い張って、頑固に拒否します。息子は母親がなんと言おうと辞めないようにとあらかじめ言い渡し、雇い主は自分なのだから母親の言うことを聞かなくて良いと言っています。

映画版でも舞台版でも、紹介されるときに、ミス・デイジーとホークの関係ばかりが強調されがちです。確かに、2人が主役ではありますが、息子はデイジーの一番の理解者と言えるでしょう。運転手を雇うなど、お金持ちにしかできないことです。しかし、ポイントはそこではありません。この息子の姿勢に、誰かを支えるとはどういうことかを教えられます。母親には、自立しているというプライドがあります。それを傷つけることなくサポートすることは、愛情と理解なくしてはできません。

ブーリーは、折に触れて母親の家に立ち寄りますが、説き伏せたり、指図したりすることは決してありません。頑固な母親の言葉にたいして、ウイットにとんだ返事をしたり、肩をすくめてみせたりするだけで立ち去ります。大雪で停電している朝には、電話を入れてそちらに行こうかと提案しています。大事なポイントは外しません。

デイジーに取って、ホークがなくてはならない存在になっていきます。その過程は、短い会話と表情、静かなシーンの積み重ねで語られます。印象深い台詞や表情を挙げようとすると、どれもこれもネタバレになりそうです。じっくり観ていただきたいところです。

デイジーとホークは、主人と雇い人の関係です。しかし、それぞれの生き方や立場にプライドを持っています。譲れない一線では、決して妥協しません。デイジーは、表向き使用人に対する主人と言う姿勢を崩しません。

ホークは、ゆっくり走ればガソリンが節約できると言い張るデイジーには黙って従います。しかし、限界線は自身で決めています。

例えば、デイジーが、教会の真ん前に車を止めたホークを叱ります。金持ちぶっていると思われるからと言うのが理由です。車を動かしながら、ホークはぴしゃりと言います。「あなたは運転手がほしい、私は仕事がほしい」世間体にこだわるデイジーには痛い一言です。

また、長旅の途中でホークが小用のために車を止めようとしたときのことです。どうしてさっきガソリンスタンドでしなかったのかというデイジーに「黒人はトイレを使えないのをお忘れですか」とホークが言います。このときのデイジーの表情は、黒人の立場をすっかり忘れていた自分への戸惑いと腹立たしさを語っています。さらに「我慢しなさい」というデイジーに、いったんは従おうとしたホークですが、次のように言います。

「小さな子どもみたいに用を足しにいきたいという気持ちがわかりますか。私は子どもじゃない。私は子どもじゃありません。あなたの車を運転する機械でもありません。70歳の大人が用を足したいと言ってるんです。」

これが、単に生理現象を我慢させられたことへの抗議ではないことは言うまでもありません。

全編を通して、登場人物の表情や短い会話で複雑な内容が表現されます。単純に見れば、老婦人と黒人運転手のハートウォーミングな話といえます。時代は1948年から1973年までの設定で、人種差別、宗教などの社会問題も扱われています。それも、声高に語られるのではなく、主要人物の体験する日常の一部として描かれているので説得力があります。

ラストシーンでのデイジーとホークの姿は、月並みな言い方ですが「感動的」としか言いようがありません。生きていくということは、老いていくということでもあります。時代が違っても、国が違っても、人間は、生まれた以上、ゆっくりと老いへの道を歩かざるを得ません。貧しくても豊かでも、また、その道をともに歩む人がいてもいなくても。それでも、生きていくのはそんなに悪いことではない。そんなことを考えさせられる映画です。

※主な受賞歴
・アカデミー賞, 第62回(1989年), 作品賞, 主演女優賞, 脚色賞, メイクアップ賞
・ゴールデングローブ, 第47回(1989年), 作品賞, 主演男優賞, 主演女優賞
・ベルリン国際映画賞, 第40回(1990年), 最優秀共演賞
・英国アカデミー賞, 第44回(1990年度), 主演女優賞

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