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【書評46】『高齢者うつ病―定年後に潜む落とし穴』米山公啓著, ちくま新書

高齢者うつ病―定年後に潜む落とし穴
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現役のビジネスパーソンのうつが大きな社会問題になっています。それに比べて、定年後の高齢者のうつに焦点が当てられることは少ないようです。高齢者の自死や心中、介護殺人などの事件が報道されますが、当事者の精神状態が詳しく語られることは、あまりありません。

本書のテーマは、見逃されがちな高齢者のうつ病です。高齢者うつの原因、治療の現状、現在の高齢者医療の問題が取り上げられています。著者自身の患者さんをモデルにしたエピソードや、セルフチェック表などを用いて、分かりやすく書かれています。

本書のベースになっているのは、お年寄りの日常を良く知る医師ならではの視点です。著者は、病院勤務を経て、現在、父親の代からの診療所で患者を診ている神経内科医です。かつて新興住宅地であった東京近郊の街です。患者の高齢化が進み、その中にうつ病の人が増えていると言います。

お年寄りたちは、馴染みのお医者さんを相手に、家族にも話せない心のうちを見せることもあります。高齢者は動作も遅くなり、話もくどくなっていきます。時間に追われる大病院では見逃されてしまう、うつ病の兆候や対処法など、高齢者とその家族が知っておきたい情報がまとめられています。

高齢者うつのきっかけが喪失であることは、若い人にも容易に想像できます。仕事を失う、配偶者や親しい友人が亡くなる、心身の能力も衰えてくる、などです。しかし、次の指摘(p23)には、はっとさせられます。

高齢になるにしたがって、認知機能の個人差は大きくなる。高齢者の判断が遅いと、脳の機能そのものが低下していると思われがちだが、そうとは限らない。脳の機能が低下していると思われることが高齢者にとってはストレスになる。

家族は、軽い気持ちで「ボケたんじゃないの?」などと本人に向かって言いがちです。動作が遅いと、つい、いら立って「早くしてよ」と言ってしまう、年老いた親が心身の衰えを嘆くと「歳なんだから仕方ないでしょう」と切り捨てる。悪意はなくても、高齢者にとっては辛いものでしょう。本人に自覚があればなおさらです。

高齢者うつが見逃されがちな理由のひとつは、高齢者はこまごまとした体の症状を訴えることが多いからだと言います(p76)。そのために、医師は年齢の変化によるものと判断しがちで、本人も歳のせいにして医者に診てもらいたがらなかったりします(p78)。

内科的な病気と診断されてしまうと、うつ病が治療されずに悪化してしまうことになる。として、他の年代のうつ病との違いを大きく3つあげています。(1)うつ病の典型的な症状が出ない(2)身体症状が併発する(3)治療薬の副作用が出やすい、ということです(p77)。

脳卒中や心筋梗塞、がんなど、他の病気との併発についても書かれています。認知症とうつも見分けにくい症状です。第5章認知症とうつに詳しく書かれていますが、その中でも「仮性認知症」は、一般の人には馴染みのない言葉でしょう。仮性認知症と認知症の違いを比較した表(p111)が、とても参考になります。

観察項目
うつ病性仮性認知症
認知症
感情 抑うつ気分持続/不安/心気 動揺/浅薄/焦燥
外見 悲しげ/ものうげ/うつむき加減 おかしみ/感情と不一致な言動
自殺傾向 しばしば 少ない
知的障害(反応) 記憶、記銘の障害、知的障害は部分的、種々の不一致あり 障害の否認、習慣の崩壊、言い訳、ニアミス返答あるいは考えようとしない

※高橋祥友, 『新訂 老年期うつ病』, 日本評論社より著者が作成した表

明らかに違うのは、仮性認知症の場合、自殺傾向が大きいことです。身近にいる人が気をつけてあげたいところです。特に、大病院の忙しい外来診療では、高齢者のうつ病は置き去りにされる危険があります。正しい診断があれば治療をうけられるにも関わらず、ただ、関係のない薬の量ばかりが増えるという事態にもなりかねないのです。

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