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【映画評4】『サクラサク』田中光敏監督, さだまさし原作(ネタバレ注意)

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主人公の俊介は、大手メーカーに勤務するビジネスパーソンです。世間一般には、この俊介の仕事ぶりをみて「家族を顧みず〜」という常套句を当てはめたくなるのかもしれません。しかし、仕事をしている人間からすれば、俊介の仕事はそれほどの激務のようには見えず、また、家族に対しても特別に冷たいようには感じられません。むしろここが、本作品の怖いところです。

俊介はむしろ、普通以上のビジネスパーソンです。実力があり、まじめで、周囲からの人望もあります。そしてついに、取締役としての昇格が打診されるまでに至りました。サラリーマンとしては、立派な勝ち組でしょう。しかしあと一歩で、これまでの苦労も報われ、すぐろくでいうところの「あがり」という段階で、問題が発生します。同居する父親、俊太郎の認知症が悪化してしまうのです。

正直、認知症の介護についての描かれ方は、かなりいい加減です。要介護認定も受けていないし、介護の専門職も出てきません。観ている人を泣かせようとするあまり、浅い表現が連発するあたりは、豪華なキャストの持ち味が活かされていないように感じられて本当に残念です。実際に今、認知症の家族の介護をしている人がみたら、少し怒ってしまうかもしれません。

ただ、そうした残念なところはあるものの、観る価値の高い映画として完成しています。それは「介護という事件が、家族のあり方を変える、よいきっかけにもなりうる」という、この映画に一貫して流れる強いメッセージがあるからです。俊介は、父親と向き合う中で、妻や子供達とも向き合うことになります。家族のために頑張ってきたはずなのに、いつしか、仕事のために家族を犠牲にするようになってしまうというのは、本当に多く見られる不幸だと思います。

今現在、仕事に没頭していながらも、心のどこかで、親や家族に対して「申し訳ない」と感じている人にこそ、観てもらいたい映画です。ただし、この映画と同じような状況になったら、地域包括支援センターなどに相談しながら、しっかりと要介護認定を受けて、介護のプロに介入してもらうようにしてください。それだけで、状況はかなり変わりますし、取締役を引き受けながら、幸せな家庭を築くことも可能性としては十分に残されるからです。

同時に、現実には、長年家族との関係をないがしろにしておいて、それが数日の家族旅行で完全回復するということもないでしょう。この映画に価値があるのは、自分自身が、この映画の主人公と同じような状態にあることに気づくところまでで、その先には、アドバイスとして使えるようなものはありません。家族のために休む場合も、職場の介護休業制度などを上手に使いましょう。介護のために数日休んだくらいで取締役になれないという会社も(まず)ありません。

また、特に認知症が疑われる場合、そうした高齢者を引き連れて見慣れぬ土地を探索して回るというのは、認知症が悪化するリスクが高い(リロケーション・ダメージ)ことも認識しておきましょう。高齢者の介護においては、それまでの生活をできるだけ変化させることなく維持するというのが鉄則なのです。この映画のような状況になった場合は、先に、目的地を見つけておいてから、その目的地の写真などを本人に見せた上で、現地に行きたいかどうか確認すべきところでした。

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