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【書評42】『さよなら、ママ』キャロル・ガイトナー著, 早川書房

さよなら、ママ
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書店や図書館では、児童書/ヤングアダルトのコーナーに並べられる本です。少女漫画のようなカバーの絵に引いてしまう人もいそうで、その点は残念です。13歳の女の子が語る口調も、少し読みにくく感じられる人もいるかもしれません。

しかし、本書の内容はとても示唆に富んでいる、非常に優れたものです。本書は、物語形式をとってはいても、グリーフケアに関する真面目な本なのです。愛する人を喪って苦しむ人、そのかたわらで、何をしてあげたらいいのか途方に暮れている人に読んでいただきたいと思います。

大切な人を亡くしたときの感情は悲しみばかりではありません。自分自身や周囲の人への怒り、恨みの感情にも苦しめられます。亡くなった人にさえ「死んでしまうなんてひどい」と怒りを感じることがあります。

そして、あのときああしていれば、こうしていれば、あんなことを言わなければ…と後悔しては苦しみます。なにかにつけて、あの人が生きていてさえくれればとも思います。本書の原題である『IF ONLY(もし~だったら、~しさえすれば)』は、こうした感情を端的に表現しています。

主人公、コリーナの母がガンで亡くなってからの1年間が、モノローグで綴られます。13歳の女の子の学校生活、淡い恋や親友との行き違いなどが語られる成長物語としても、読み応えがあります。

主人公は、同世代の友人たちの言葉や態度に傷つき、周囲の大人たちのふるまいにも怒りを感じます。周りの人たちに悪意があるわけではないと分かっていても、誰にも理解されない孤独感に苛まれます。表面は何でもない風をよそおっていますが、心の中の嵐はおさめようがありません。

そして、主人公の父親もまた、自身の悲しみにうちひしがれるばかりで頼りになりません。コリーナは、学校のカウンセラーに、親を亡くした生徒たちのグリーフケアのグループへの参加を勧められます。そこに迷いながら参加し、親を失ったのは自分だけではないこと、ガンで亡くすよりも辛い体験をした子供がいることも知ります。

グループでの話し合いの中で、子供たちが言われたくない言葉、言われてよかった言葉が挙げられています。安易に「あなたの悲しみは分かるよ」というような言葉をかけられることが嫌、何事もなかったような態度を取られるのはもっと嫌だと言っています。これは大人でも同じことでしょう。

著者であるキャロル・ガイトナー(Carole Geithner)は、ジョージ・ワシントン大学の精神医学・行動科学の臨床学准教授です。グリーフケアの専門家として、親を亡くした子供や、子供の頃に親を亡くした大人のためのカウンセリングを20年以上続けています。

著書にとって、本書が初めての小説ということですが、自然な人物描写やストーリーの運びが巧みです。カウンセラーとして、悲嘆にくれる人に寄り添い続けた姿勢が、そのまま生かされているのでしょう。

終わり近くに、コリーナと父親は日本を訪れます。亡き母親がよく話していたホストファミリーに会う場面に、作者の姿勢がよく現れています。言葉は通じず、日本人夫婦の精一杯のもてなしもぎこちないまま時間が過ぎます。物語としては、感動の出会いにしたいところですが、そうはしないところが全体にリアリティをあたえています。

本書の最後になっても、コリーナも父親も、悲しみを乗り越えているわけではありません。「(パパと私が)こうやってなんとかやっていけるといいな。うん、きっとだいじょうぶ」と思うに止まるのです。最後に、訳者あとがき(p319~323)の中から、作者の言葉を引用します。

悲嘆(グリーフ)とよばれる大切な人を喪う体験はだれにでも起こりうることであり、同時にさまざまな感情がわき起こることでもあります。ところが、それは口に出して話したいものでもなければ、おそらく安心して胸の内を語る機会が多くあるものでもありません。コリーナの物語を読んで、家族や友人を喪い悲しみのただなかにいる人が、自分はひとりきりじゃないと感じてもらえたらと希っています。

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