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【書評40】『七十歳死亡法案、可決』垣谷美雨著, 幻冬舎

七十歳死亡法案、可決
Amazon: 七十歳死亡法案、可決

衝撃的なタイトルだが、考えさせられる

衝撃的なタイトルである。その年代の親を持つ人たちには特に胸に刺さるかもしれない。本書がフィクションとして提示する「法案」の具体的な内容は次のようなものである。

日本国籍を有する者は誰しも七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならない

もちろん、実際にはそのような法案は存在しないし、これはフィクションにすぎない。しかし本書を読めば、この「法案」の生々しさに気分が悪くなる人もいるだろう。決して、絶対にありえないとは言えないからだ。

本作の主な登場人物は、どこにでもあるような5人家族だ。もうすぐ定年退職する夫58歳、義母の介護をする専業主婦の妻55歳、独り立ちして介護士として働く長女30歳、29歳で引きこもりの元エリートである長男、そして要介護であるが気はしっかりとした84歳の祖母、といった構成だ。

本書の構成について

この登場人物の顔ぶれから分かるかと思うが、この作品の中心にあるのは家族介護である。本書では、日本は今よりもさらに少子高齢化が進行している近未来が描かれている。年金制度の崩壊、医療費のパンクが起こり、さらに介護保険制度の認定基準はより厳しくなっている。

社会福祉のための財源が完全に枯渇している世界であり、これは現実に起こりうる。こうした財政が追いつかない状態で提示された答えが「七十歳死亡法案」なのである。本書は「法案」が可決されて、施行まであと2年という世界で、それぞれの登場人物から見た現実を生々しく描いている。

例えば、義母の介護をする専業主婦の妻の視点を描いた章のタイトルは『早く死んでほしい』だ。決して彼女は義母を憎んでいるわけではない。けれど「死んでほしい」のだ。これは、介護に関わったことのない人には理解しにくい感情かもしれない。

明日から、いや今すぐにでも自由になりたいと思ってしまう。(第1章より)

妻は「法案」によって辛い介護に期限が設けられたことだけを心の支えに生きている。どんどん横柄になる義母の介護に専念する彼女は、きっと現実の日本のどこかに、少なくはない人数いることだろう。ただし現実のほうが厳しい。なぜなら、こうした介護に期限はなく、それは、いつまで続くか分からないからだ。

本書が投げかける問題

介護を受けている84歳の祖母の視点はもっと悲痛である。骨折から自力歩行が不可能になり寝たきりになった彼女は、頭はしっかりと冴えている。そのため、余計に介護される自分に苛立ち、そして苦しんでいる。このような老人は今後どんどん増えていくだろう。

もう生きていたって仕方がない

そうは思うものの、いざ死ぬとなると不安で仕方がなくなる。

なんの役にも立たないどころか、面倒ばかりかけているんだもの。

作中に登場する彼らは、そのまま未来の私たちかもしれない。本書は、私たちに次のようなことを問うている。寿命が延びたことで、より幸せになったのか?長寿大国に生まれることは、よいことなのか?「日本の成長を支えてきた」老人たちを、数少ない若者が支えるという「美しい」構図は、本当に美しいのだろうか?

繰り返しになるが、本書はフィクションにすぎない。しかし、本書が投げかける問題は、現実の私たちに向けられているものだ。私たちは、近い将来、この問題に答える必要がある。そのとき、本書が提示した「法案」のようなものは(年齢の高い政治家が多数いる)日本の国会を通らないだろう。しかし世間では、こうした「法案」がまじめに議論されてしまうかもしれないのだ。

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