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【書評36】『家族理解入門』団士郎著, 中央法規

対人援助職のための家族理解入門―家族の構造理論を活かす
Amazon: 家族理解入門

誰もが読んでおくべき本

介護に関係している人はもちろん、介護とは縁のない生活をしている人であっても、是非とも読んでおきたい1冊です。特に、家族関係に悩みを抱えているなら、まっさきに手に取りたい本でもあります。それだけ、威力があります。

全部で136ページの薄い本ではありますが、中身は、非常に考えさせられる構成になっています。実用書であり、ただ知識を深めることではなく、家族関係をより良好なものにすることに役立つように、配慮されています。

医療はそういう合理科学的な原因と結果から方針が導き出される仕組みである。しかし、広い対人援助の相談現場で、そんな一発必中の原因論を志向すると、たいてい頓挫するだろう。(p22)

もちろん、家族の問題には、特効薬のようなものがあるわけではありません。ただ、私たちは、家族を良好な状態に保つ方法といったことについて、しっかりとした教育を受けることがありません。その意味で、すべての家族は、手探りの危ない状態にあるわけです。

本書は、家族になんらかの問題を抱えつつも、それについて正しく考える方法を持たないすべての人にとって有益なものです。現在、家族の問題に悩んでいるならすぐにでも、また、これから家族を築こうとする若者もまた、読んでおくべき1冊になっています。

筆者である団士郎氏に関して

筆者である団士郎(だん・しろう)氏は、児童相談や障害者相談機関における心理職として、25年のキャリアがあります。現在は、立命館大学大学院にて教授として教壇に立っているだけでなく、全国各地で家族療法・家族理解のワークショップを行っています。

立命館大学の教員紹介のページによれば「小さくても結果を出すことが当事者には重要。その糸口を、教育・福祉・医療・司法等、すべての領域で「家族」に見つけることができる」というキャッチコピーを持って活動されているようです。

介護問題はいつも、(1)誰がするべきか(義務・責任)、(2)誰ができるか(能力)、(3)誰がしたいか/誰にしてほしいか(感情)の3つがせめぎ合う。(p39)

様々な社会課題を、家族という切り口から考え、その改善を通して、社会課題と向き合おうとされているのでしょう。介護の問題ももちろんなのですが、本書を読んでいると、本当に多くの社会課題の原因が、家族の問題に根をはっていることに気付かされます。

本書のアプローチについて

本書は、様々な家族が抱える問題について、ジェノグラム(genogram)と呼ばれる家族関係の分析ツールを用いて考えていく構成になっています。ジェノグラムについて、なんの知識もない状態からでも問題なく読めるので、そこは安心してください。

プロの対人支援職として活動している場合は、ジェノグラムの使い方に慣れるための教科書としても役立ちます。そうした仕事についてない人にとっては、本書の中に登場してくる家族を理解するための助けとして効果的に機能します。

熟年離婚の調停話でしばしば感じたのは、年配カップルにしては話の底が浅いことだ。大雑把に言ってしまえば、若い夫婦間のトラブルと大差ない。おそらく、嬉しいこともつらいことも含めた夫婦としての適切な時間の重ね方ができてこなかったのだろうと思った。(p47)

大事なのは、ジェノグラムが描けるようになることではありません。ジェノグラムの考え方を理解し、それを自らの家族関係の改善に役立てることのほうが、何倍も重要です。特に、過去の家族を理解することではなく、未来の家族を構想するためにこそ、必要な考え方です。

本書の構成について

まず、第1部「家族の構造理論」で、ジェノグラムをはじめとした、家族を理解するための方法論と理論について述べられます。特に、構造理論については、それぞれの立場を生み出す「境界」、家族システムの下位概念として生まれる「サブシステム」、意思決定権や実質的な力である「パワー」、の3つの視点が述べられていきます。

ここでは、家族の問題を考えるときの基本的なアプローチが学べます。それまでは、ただ「なんとなく」考えてきたことに対して理論が与えられ、すっきりする人も多いでしょう。

犬を飼ったもののしつけられず、訓練業者に委託する人が増えているそうだ。また、しつけはできずかわいがるだけの人は、他にもっとかわいいものを見つけたら犬は処分する。その処分を他人に委ね、自分はそのばを見ようとしない。(中略)犬に置き換えたらわかりやすいこのタイプの人が、権威やコントロール力を持つ責任を自覚して子ども(人)に接することのできない人である。(p72)

第2部「構造的特徴に基づく展開」では、一見多様に思われる家族の問題を、構造的な類型としてまとめてしまいます。それぞれに違った症状がみられても、家族の構造は、典型的な問題に帰着できるという、実務家ならではの視点です。

これは、家族を構造的に考えるときの視点を与えてくれます。本書で言及される視点としては(1)過干渉の問題(2)秘密の問題(3)不在の問題(4)実家との問題(5)上世代の権力問題(6)母子密着の問題(7)疾病利得の常態化問題(8)兄弟姉妹間差別の問題(9)大いなる他者の介入問題(10)ネガティヴの流行問題、の10個です。

「亭主元気で留守がよい!」はジョークであって、真に受けて暮らすものではない。現実としての家族員の不在は大きな影響力を持つ。不在は、家族にとって取り戻すことの叶わない大きな空洞である。それがゆえに、夫婦の連帯は弱くなっている。(中略)不在のところに家族外の第三者が侵入することもしばしばである。実家の両親や兄弟姉妹の接近。あるいは、双方に配偶者以外の男女関係が忍び寄る。(p95)

これらの視点の重要性が語られたあと、その視点が活かされる事例研究が続きます。事例研究の中には、自分の家族と同じ問題を抱えているケースも見つけられるでしょう。そこから得られるヒントも多く、あたかも、筆者のカウンセリングを受けているような気分にもなります。

家族の関係がどうであるかということと、私たちの幸せは、密接に関連しているはずです。にもかかわらず、家族について考えるための方法論や理論は、なかなか学ぶ機会がなかったりもします。本書は、その入り口として最適なだけでなく、人によっては、この1冊にヒントを得るだけで、劇的な改善がのぞめるのではないでしょうか。

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