閉じる

【書評33】『患者は知らない医者の真実』野田一成著, ディスカヴァー携書

患者は知らない 医者の真実 (ディスカヴァー携書)
Amazon: 患者は知らない 医者の真実

医師とは、どのような人々なのか

介護をしていると、もっともお世話になるのは介護職や看護師だとしても、やはり、医師との連携も必要になってきます。要介護者の家族として、医師に接していると、どうしても介護職や看護職と比較して「なんだか冷たいな・・・」という印象を持ってしまうことも多いでしょう。

しかし、心のどこかでは、私たちは日本の医師を尊敬しています。医師は、子供のなりたい職業ランキングでも常連ですし、誰もが一度は憧れる職業でしょう。しかし、受験時代に、医学部が偏差値表の一番上のほうにある事実を知って、医師になることを諦めた人も多いはずです。

医師は、医学部に入ると、病院の近くにある校舎で学ぶことが多いので、物理的に、他の学部生とのつながりが希薄です。大学のサークルや部活も、医学部は、その厳しいカリキュラムに合わせて、医学部生だけで構成される特別枠になっていたりするため、関係性も、他の学部生とは希薄になります。

普通に生きていると、多くの人は、医師と個人的に仲良くなるような機会がないのです。そうなると、一般人の人生においては、医師とは、自分や家族が病気をしたときくらいしか、接点がなくなります。ドラマやドキュメンタリーを通してだけ、私たちは、医師という存在をイメージすることができるような状態でしょう。

しかし、介護がはじまると、想像以上に医師とのコミュニケーションが発生します。それまでは、主治医という考え方などなかったのに、親の介護をきっかけとして、同じ医師と継続して連絡をとるようにもなったりします。

そこで多くの人が得る印象が、冒頭で取り上げた「なんだか冷たいな・・・」というものです。今回紹介するのは、医師とはどういう人々なのかを理解する上で、また、介護について医師の目線から考える上で、とても参考になる本です。

ジャーナリストと医学の2面性を持った異色の著者

本書の著者である野田一成氏は、NHKで記者として6年半働いた後、医学部に入り直し、医師となった異色の経歴をもった人です。いわゆる学士入学(医学部ではない学部を卒業し、他学部の3年次に入学すること)ですが、ジャーナリストから医師というケースは、それほど多くはないはずです。

そんな著者が、医師の現実と本音について、暴露本としてではなく、建設的な提案を含む事実として書き上げたのが本書です。随所に、ジャーナリストとしての客観的な視点があり「ああ、そういうことだったのか」という気づきにあふれています。

特に、もっと入院させておいてもらいたいと思う家族への反論(p69)、安易に胃瘻を望む家族への反論(p76, p272)、先にお願いした医師よりも後から出てくる医師のほうが優れて見える理由(p93)、経過観察は放置ではなく大切な診療であること(p123)、病歴が大切な理由と記録のポイント(p129)、病理解剖がグリーフケアにつながる可能性を持っていること(p166)については、必読だと感じました。

本書には高齢者医療という視点からの記述も多く、介護をしている人にとって、非常に役立つものになっています。一部、専門性が高すぎて読みにくいところ(p196〜206の腫瘍マーカーの記述など)もありますが、多くは平易で、医療に馴染みのない人でも読めるようになっています。

ガラパゴス化せずに、開かれた医療であることの重要性

本書は、医師の日常からはじまって、日本の医療そのものに対する問題提起に向かっていきます。

たとえば、2023年以降、アメリカで医療行為に従事する資格が得られる医大としては、まだ、日本の医大はどこも認定を受けていないこと(p258)は、とても深刻な問題です。創造的な知の獲得には、グローバルなネットワークが必須の時代にあって、一般人の知らぬ間に、日本の医学はガラパゴス化していたようです。

また、WHOによる医療制度ランキングでは、日本(アジア2位、世界10位)はシンガポール(アジア1位、世界6位)に抜かれており、今後、アジア諸国に抜かれていく危険性についても警鐘が鳴らされています(p275〜280)。

日本の医療が世界をリードし、医療を輸出産業として発展させるためにも、グローバル化とコストから考えたリソースの最適化が必要です。そのためにも、一般人であれ日本の医療について勉強する必要があるし、医師であっても経営学をはじめとした国際的に通用するロジックを学ぶ必要があるはずです。

本書は、そのきっかけとなるのに必要十分なものになっていると感じました。

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

PR